板谷国際特許事務所- Itaya & Associates

裁判事例


進歩性の判断事例<組合せ阻害要因>


「紙葉類の積層状態検知装置」事件

平成17(行ケ)10490審決取消請求事件 知財高裁H18.6.29判決


<概要>

 特願平6-322201号の発明につき、引用例(実開昭62-51461号公報)に基づき進歩性を否定した拒絶査定を支持する審決の取消を求めた事件。
【請求項1】
 所定方向に搬送される紙葉類の一部に照射する照射光を発光する発光素子と、
 前記照射光が前記紙葉類の一部を透過した透過光を前記所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるように光学的に結合する導光部材と、
 前記紙葉類の他部を透過した透過光を受光する受光素子とを含み、
 前記発光素子,前記導光部材,及び前記受光素子は前記紙葉類を搬送するための搬送通路近傍の異なる位置に配置されて成ることを特徴とする
 紙葉類識別装置の光学検出部。

<審決理由の骨子>

 審決は、本願発明と引用例とを対比し、次の相違点を認定した。
・相違点1;本願発明が、透過光を紙葉類の搬送方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射される事項を有しているのに対して、引用例では明示されていない。
・相違点2;本願発明が、発光素子、導光部材及び受光素子が搬送通路近傍に配置される事項を有しているのに対して、引用例には明示がない。
・相違点3;光学検出部が、本願発明では紙葉類識別装置用なのに対し、引用例に記載の発明では、紙葉類の積層状態検知用である。
 しかしながら、次の理由により拒絶査定を維持した。
 一般に、紙葉類の識別を行う際に、紙葉類の特徴箇所を選んで識別することは、当業者が容易に想到し得たことである。所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異なる他部に照射されるようにすることは、単なる設計変更である。
 発光素子で紙葉類の一部に照射させ、透過光を受光素子で受光してなる、紙葉類識別装置の光学検出部は、本願出願前周知な技術事項であり、引用例に記載の発明も紙葉類を扱うものであり、発光素子、受光素子により紙葉類の透過光を検出するものであるから、引用例に記載の発明を、上記周知事項に適用して紙葉類識別装置の光学検出部とすることは、当業者が必要に応じ容易になし得ることと認められる。

<判決の要点>

 判決は、本願発明と引用例とは発明の課題及び目的が相違していることを挙げ、本願発明の構成を把握する上で、相違点1及び2と相違点3とを分説するのはよいとしても、相違点1ないし3の相互の関係を考慮しながら、本願発明の進歩性について検討しなければならないとした上で、相違点1及び3に係る構成の相互関係を、搬送方向に対して平行に想定される線(検出ライン)ごとに異なった2か所の位置に照射され、紙葉類を透過する意味であると解し、本願発明には「複数本の検出ラインの技術的思想」が存在すると認定した。
 これに対し、引用例については、複数本の検出ライン上で紙葉類の積層を検出しているのではないことはもちろんのこと、そもそも、照射光を紙葉類に透過させ、紙葉類の枚数を検知するというのであって、紙葉類のいずれを検出箇所にしてもかまわないのであるから、複数本の検出ラインの技術思想はないとし、引用例には相違点1及び3に係る構成の開示も示唆もないと認定した。
 審決の判断は、紙葉類の積層状態検知装置と紙葉類識別装置を共通あるいは密接に関連した技術分野のものであるとの考えを前提にするものと思われる。しかし、前者は、複数回紙葉類を透過すことによって受光手段で受光される測定光量の差が大きくなることを利用し、紙葉類の枚数を検知する<のに対し、後者においては、紙葉類の検出箇所を透過して得られる印刷模様や色等の情報を含んだ透過光を利用し、紙葉類の識別を行うものであり、基本構成において一致しているといっても、その機能、作用、その他具体的技術において少なからず差異があるものと言うべきである。従って、紙葉類の積層状態検知装置と紙葉類識別装置は近接した技術分野であるとしても、その差異を無視し得るようなものではなく、構成において、紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには、それなりの動機付けを必要とするものであって、単なる設計変更であるということでは済ませられるものではない。」と指摘した上、引用発明が紙葉類の積層状態検知装置である限り、紙葉類のいずれを検出箇所にしてもかまわないのであるから、本件周知装置と引用とを組み合わせて相違点1及び3に係る本願発明の構成に導くような動機付けを見出すことはできない」として審決を取り消した。
 また、「光を紙葉類に透過させ、その透過光を基準値と比較することにより紙葉類の識別を行うという紙葉類識別装置の周知技術(乙1~2の本件周知装置)を引用例に適用する上において阻害要因がない」旨の本訴訟段階における被告(特許庁)の主張は、審判段階では本件周知装置を「本願出願前周知な技術事項」とし本願発明と対比されるべき引用例とされていたのではないのに、訴訟段階に至って主引用例を差し替える主張は、審決取消訴訟の審理範囲(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)を逸脱するものであって許されないとして失当とされた。

<評釈>

 本判決では、進歩性の判断は、相違点1~3を個別に行うのではなく、相違点相互の関係を考慮して行うべきとした。例えば、相違点3のみを単体で評価すると、紙葉類の「積層検知装置」と「識別装置」とは密接に関連していると評価するしかないが、判決はこのような姿勢を批判し、「複数本の検出ラインの技術的思想」を抽出し、この点を評価している。その上で、紙葉類の「積層検知装置」に係る引用例に「識別装置」に関する乙1~2の本件周知技術を適用することの動機付けがないとの結論を導いた。